研究内容の紹介
私の専門は素粒子物理学の理論です。中でも特に、クォーク閉じ込め機構の数値的研究を中心に行っています。素粒子の研究ではコンピュータをたくさん使うので、コンピュータサイエンスにも興味があります。
素粒子とは何だろうか
皆さんの身の回りのあらゆるものは炭素や水素などの原子からできています。
原子は何からできているのでしょう?原子を分解すると、中心にプラスの電荷を持った原子核と呼ばれる重い粒子があり、その周りをマイナスの電荷を持ったいくつかの電子(electron)が回っています。電子はそれ以上細かく分割することができません。
では原子核は何からできているのでしょう?原子核は、プラスの電荷を持った陽子と、電気的に中性の中性子がいくつか寄り集まってできています。
陽子と中性子は何からできているのでしょう?これらはクォーク(quark)と呼ばれる粒子が3つ集まってできています。現在のところ、クォークは電子と同じくそれ以上細かく分割することができないと考えられています。
このように、物質をどんどん細かく分割していったときに、それ以上は分割できない、物質を構成するもっとも基本的な構成粒子に行き当たります。これらをま
とめて素粒子(elementary
particle)といいます。クォークの仲間はu、d、s、c、b、tという名前が付けられた6つ、電子の仲間はレプトン(lepton)といって、電
子、τ(タウ)、μ(ミュー)、電子ニュートリノ、τニュートリノ、μニュートリノの6つが、それぞれ見つかっています。これらの計12個の粒子と、それ
らの電気的性質を逆にした反粒子が12個あります。これらをまとめて素粒子と呼びます。
力を伝えるのも素粒子
実はクォークとレプトン以外にも素粒子があります。それはゲージ(gauge)粒子と呼ばれる粒子で、いくつかの種類が知られています。ゲージ粒子は
クォークやレプトンの間で力を媒介する働きをします。重力は重力子(グラビトン)、電磁気力は光子(photon)、弱い力はWとZ、強い力はグルーオン
(gluon)がそれぞれ力の担い手です。クォークやレプトンはゲージ粒子をキャッチボールしながら結びついています。
宇宙の成り立ちを知る
皆さんが住んでいる宇宙は時間が経つにつれてどんどん膨張していることが観測からわかっています。逆に言うと、昔はもっと宇宙が小さかったと言うことで
す。どんどん時間をさかのぼっていくと宇宙はどんどん小さくなり、しまいには原子よりも小さな点になってしまいます。このような小さな領域で何が起こって
いるのかを知るためにはやはり素粒子の理論が必要になります。こんな広い宇宙の成り立ちに極微の素粒子が関わっているなんて何とも不思議ですね。
素粒子を記述する力学
ほかの物理の理論と同様に、素粒子の世界を記述する言葉も数学です。素粒子の標準模型(standard
model)はSU(3)×SU(2)×U(1)というゲージ群に基づく非可換ゲージ理論というものです。標準模型の予言は驚異的な精度で実験結果と一致
することが知られており、標準模型が正しい理論であることは間違いありません。その一方で、標準模型の枠組みの中ではまだ厳密に理解されていない現象もい
くつかあります。クォークの閉じ込め(quark
confinement)というのもその一つです。
クォークの閉じ込め現象
素粒子の極微の世界を眺めるための顕微鏡の役割をするのが加速器と呼ばれる巨大な実験装置です。これは、陽子や電子、鉛原子などを光に近い速さで正面衝突
させて、バラバラに壊れたものを検出する機械です。不思議なことに、どんなに強いエネルギーで粒子をぶつけてもクォークが単体で外に飛び出てきたことはあ
りません。なぜ飛び出てこないのかを数学的に厳密に証明した人はまだいませんが、双対マイスナー効果と呼ばれる仕掛けで閉じ込めが起きているであろうこと
がスーパーコンピュータを使ったシミュレーションで確かめられつつあります。私は双対マイスナー効果に基づいてクォーク閉じ込めのメカニズムをより詳しく
理解するという立場で、日夜コンピュータと格闘しながら研究を行っています。
お薦めの本
素粒子の世界に興味が出てきた人には、以下の本を読んでみることをお薦めします。