【炭素材料とその解析手法】

炭素原子は化学結合の状態の違いにより多様な無機化合物を形成し,他の原子 と結び付くことにより膨大な数の有機化合物を造り出している.このように多 様な形態を成す炭素を主体として,これまで多くの材料が開発され,工業技術 の発展の一端を支えてきた.その基盤には炭素材料の組織および構造解析技術 の研究・開発と,これによる材料科学の進歩があった.


炭素材料の構造解析の手法としては,X線回折,各種分光分析,磁気抵抗効果 および顕微鏡観察などの手法が広く用いられている.X線回折,分光分析およ び磁気抵抗効果などの手法は定量的ではあるが,被測定試料全体の平均的な特 徴を与えるため,局所的な原子レベルの変化による結晶の歪みなど,細部の情 報を分離して得ることが困難である.これに対して光学顕微鏡や電子顕微鏡は, 試料の様子を視覚的に観察できるところに特徴があり,倍率に応じて試料全体 を巨視的に,あるいは局部の状態を微視的に直接観察できる.しかし,一般的 に顕微鏡による解析は,目視による解析が中心であるため数値化が難しく定量 的評価が困難である.したがって,X線回折などの統計的手法と顕微鏡観察は 相補的に用いられ効果をあげてきた.顕微鏡像には多くの情報が含まれている と考えられるが,炭素材料の解析において顕微鏡観察は必ずしも有効に使われ ておらず,定量的な観察手法および解析法が望まれている.
本研究はコンピュータ技術の発達により実用的となった画像処理を用いて,像 の明瞭化,特徴の抽出および定量化などを行うことにより,これまでの顕微鏡 観察の欠点を補う新たな手法の確立を目指している.顕微鏡の種類および倍率 の異なる条件における炭素材料の解析に,本手法を適用する.拡大率では,透 過電子顕微鏡(TEM),走査電子顕微鏡(SEM)および光学顕微鏡を用いた高倍率か ら低倍率の拡大像に対して,試料の組織については,結晶構造のように整った ものから非常に乱れたアモルファスな組織に対して,画像処理による解析を試 みている.